- 作者: 渡邊大門
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/05/18
- メディア: 新書
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転換期としての15世紀半ばを取り上げ、どう「権威」と「権力」が分裂していったのか。
戦国時代とは、実際の権力をどう掌握するのか、最終的にいえば天下を統一するのか、を巡り、争いが起きた時代です。
その画期を、著者は15世紀半ばに見いだしています。
氏の論旨はいくつもありますが、おおむね以下の点に着目できるでしょう。
- 足利義教の将軍就任が籤引きによるものであったため、将軍としての実権が存在しなかった
- 以後の将軍も管領や有力守護によって左右されていった
- 義政の政治手腕のなさ(権力を掌握するための朝令暮改)
- 守護の在京義務により、在地を管理する守護代の台頭
- 後継者争いをめぐる権力闘争
まず、幕府の混乱の始まりを「籤引き将軍」である義教の即位から始まっていると考えています。
後継者問題により、様々な思惑を含めて義教が将軍になったが、権力のない将軍にすぎませんでした。権力は幕政を担う有力守護へと移っていきます。
それを解消しようと将軍専制を強めますが、有力守護の一人赤松氏に謀殺されてしまいます。
この時点で幕府の権力構造は崩壊しているわけですが、すぐに「権威」と「権力」が分裂するわけではありません。
将軍なくては幕府は存在し得ないからです。
しかし、すでに将軍に実権はなく、管領・有力守護に実権は移っています。
それを理解しているからこそ、歴代の将軍はなんとかして実権を自分の元へ移そうとするわけですが、それが政治的混迷を引き起こします。
著者が着目しているのは、義政の権力掌握行動による政治的混迷です。
将軍vs守護という構図もそうですが、この時期、守護vs守護代という構図も存在した。
守護の管理する国を実際に管理しているのは守護代であり、守護の権力は守護代に移っています。しかし、守護という役職なしに支配の正当性を訴えることはできません。
ゆえに、傀儡の守護を立てようとする(実権を守護代に移していく)行動に出ます。
それが各守護の後継者争いになるのですが、義政はそれを自身の権力回復に利用します。
そうなると、将軍、守護、守護代という多層的なつながりができ、複雑な利害関係が発生します。
誰かを失脚させると、他の誰かに失脚させられる。
そうして政治は混迷し、幕政は正常に機能しなくなります。
そのうち、将軍や守護といった役職は意味をなさなくなり、実際に支配しているのは誰か、となっていきます。
実際に支配している人間が権力者であり、役職・官位は意味をなさないと考えてくるのです。
これが戦国時代へと突入する契機となります。
本書の面白い点は、それが天皇・朝廷でも同じことが起こっていた、という論点です。
権威の塊である天皇・朝廷もまた、実質的な行動が意味をなさなくなり、権威だけが残っている状態になります。
室町・戦国期の天皇・朝廷を語る著書は少なかっただけに、意欲的だと評価できます。
しかし、戦国もある程度の時期になると戦国大名達はこぞって官位を求めるようになります。
これについては、どう考えているのでしょうか。
下克上が広がった混乱期は官位は無意味であっても、混乱が収束すると権力の根拠として官位(権威)が必要となるのではないでしょうか。
そのあたりのメカニズムも明らかにすると面白いのではないでしょうか。
戦国の始まりは「権力」と「権威」の乖離だけれど、統一にはやはり「権力」と「権威」の両方が必要になるのではないでしょうか。