活字中毒の溺れる様の記

これは、よくいる活字中毒者が溺れ死ぬまでの記録である……なわけない(笑)

やはり鳩は高みへは飛べないのか

鳩とクラウジウスの原理

鳩とクラウジウスの原理

「第1回野生時代フロンティア文学賞」受賞作品です。
一言で言えば、森見登美彦臭のする作品でした。
どうも、ダメ男の話は森見作品に帰結してしまう気がします。どんどんとダメ男作品が増殖しているのは森見作品のせいでしょうか。


唯一面白い部分があるとしたら、「夜羽子」のくだりだけでした。
人によっては泰然としている主人公の唯一の弱い部分ととらえる人もいるかも知れません。
しかし、この作品の肝は「クラウジウスの原理」よろしく人もまた高きから低きへ流れる、ということです。
なぜ、主人公がその物理法則と恋愛とを結びつけたのか、その原点といえる挿話です。
いろいろとぐだぐだな物語の中で、静謐を生み出した部分でもあります。


そのくだりについては、選考委員の池上永一氏も絶賛している。
というか、山本文緒女史は推すべき作品がなく、池上氏が推したから決まった、というような雰囲気を選評から感じられます。
邪推、ともいえますが。


個人的には、犬さんとロンメルの結末はいただけなかったな、と思うのですが、まあ、目をつぶりましょう。


ただ問題は、第1回がこの作品だと、野生時代フロンティア文学賞も先が短いのではないでしょうか。
悪い作品ではないですが、突き抜けた作品でもない。
こういう絶賛も賛否両論でもない作品が最初に来る文学賞はたいていダメになります。
そこが心配です。