活字中毒の溺れる様の記

これは、よくいる活字中毒者が溺れ死ぬまでの記録である……なわけない(笑)

信念なき者は死すのみ

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

現在、NHK教育で放送中の『ハーバード白熱教室 JUSTICE』の講義内容を本にまとめたものです。
そもそも、この放送自体、マイケル・サンデル教授の授業があまりにも面白いので、放送で公開しようとしたものをNHKが放送しているものです。


現在において、「正義」ほど定義の難しいものはありません。
正義というものがそれぞれのバックボーンなしには考えられないからでしょう。
その正義について、サンデル教授は専門の政治哲学に結びつけながら、正義をどう考えていけばいいのかについて論じています。


救助船での事件から始まり、何かがなされるには「同意」が必要であり、社会は「暗黙の同意」に基づいているというジョン・ロックを取り上げます。そして、「最大多数の幸福」を考える功利主義とカントの批判を考え、「正しいことを行おうとする意志」が重要であるとカントの論を展開します。
しかし、それらのすべては主観に基づいており、ここによって答えが異なってしまいます。そこでジョン・ロールは「無知のベール」という概念を用いて、自分のバックボーンを排除した状態での思想こそがもっとも正しいと考えます。アファーマティブ・アクション積極的差別是正措置)を例にとりながら、アリストテレスの「テロス」に触れます。
「正義とはふさわしいものをふさわしい人に分配すること」
そして、政治のテロス(目的)とは「善き生」を実現することだ、としています。
ここで、政治哲学に戻り、なおかつ彼の持論である「コミュニタリアニズム」を取り上げています。普遍的義務、同意による義務のほかに、コミュニティの義務があると。


彼の論旨は非常に明快です。
政治哲学を時系列に並べているのではなく、持論の展開に必要な形で並べているので、読み手が彼の論旨について行くことができます。この構成から、彼の知性が伺えます。
それだけでなく、政治をどう考えるのかのヒントにもなっています。
激変する政治を見ながら、政治がどうあるべきかを国民が考えるよい機会にもなるのではないでしょうか。


電子書籍元年 iPad&キンドルで本と出版業界は激変するか?

電子書籍元年 iPad&キンドルで本と出版業界は激変するか?

キンドルiPad発売以降、電子書籍に関する書籍が複数出ています。
その中で、わりとまとものかな、と思える一冊です。
出版やその周辺の実情に触れていますし、必ずしも電子書籍が儲かる存在ではないことも明らかにしています。
その点は非常に参考になる一冊です。


しかし、どうも取次・印刷会社・書店の未来に対して、無条件に明るい未来を提示しすぎな気がします。
私はすくなくとも書店はCDショップと同じ、あるいは近い運命をたどると思っています。
本書ではセレクトショップや専門店化することで生き残れる、と考えていますが、それができるのは本当に一部の書店だけです。ほとんどの町の書店、チェーン書店は閉店の憂き目を見るでしょう。
なぜなら、セレクトショップや専門店はそれだけ書店員の能力が求められます。現時点でできていないのに、どうして多くの人たちができるでしょうか。もちろん、できている書店もあるので、そういう書店は生き残るはずです。