活字中毒の溺れる様の記

これは、よくいる活字中毒者が溺れ死ぬまでの記録である……なわけない(笑)

ガンガン通史に見る失敗と希望


今、もっとも勢いのあるマンガ出版社はスクウェア・エニックスではないでしょうか。
一時期は、本当につまらなくて「もうすぐつぶれるんじゃないか」とエニックス時代思っていましたが、今は『鋼の錬金術師』を始め、面白い作品が目白押しです。


君と僕。 (1) (ガンガンコミックス (0602))

君と僕。 (1) (ガンガンコミックス (0602))


上記2作品はけっこう面白かったですね。
わりと上質な作品を多く出しているのはスクウェア・エニックスですね。
あとは講談社でしょうか。


まあ、自分の好みもありますが。


そこで、少し考えてみました。
ガンガンの黎明期から今までを通して、マンガ雑誌の方向性を考えてみたいと思います。
とはいうものの、実のところ、私、ガンガン黎明期こそ読者でしたが、今や完全なコミックス読者へと転換してしまいました。
ゆえに、雑誌の現状を詳しくはわかっておりません。
なので、ここはひとつ周辺状況から追いかけていきたい、と考えています。


やや、指向が偏っていますが、このサイトがガンガン通史として使えるので、以下、このサイトの記述を基準に話を進めていきます。
たかひろ的研究館


創刊当時、どういう経緯かは上記サイトを見ていただくとして、一読者からすると、「ドラクエの4コマとストーリーマンガ雑誌」というイメージでした。
というか、エニックスドラクエという公式以外、存在しなかった時期ですからね。
ほとんど4コマ雑誌といっても過言ではありませんでした。
ここで、雑誌をけん引していたのは『ロトの紋章』でしょう。ドラクエファンとしては読みたい作品でした。
あと、『南国少年パプワくん』『ハーメルンのバイオリン弾き』です。
この三作品と4コマが創刊当時の中心でした。


ここでは完全にドラクエというコンテンツに依存していた雑誌といえます。
ネームバリュー、コンテンツパワーがない時代でしたから、ドラクエで売る以外、方法がなかったといえます。


その後、『ツインシグナル』や『魔法陣グルグル』といったドラクエとは関係のない作品も売れ始めます。
このころから4コマは影をひそめ始め、ストーリーマンガへと路線変更していきます。
(もっとも、「ラー○ンマン」マンガが連載されたあたりから読むのをやめてしまいましたが)


95、96年あたりから、ガンガンが変化していきます。
それは今のエニックスコミックの原型となりうる作品の登場です。
まもって守護月天!』『刻の大地』『ジャングルはいつもハレのちグゥ』『PON!とキマイラ』『東京アンダーグラウンド』などです。
ただ、どうもこの時代は不振だったようです。
一つの原因が隔週刊雑誌に移行したことです。ペースが単純計算、これまでの2倍です。
もちろん、週刊誌があるので、隔週刊が無理、というわけではありませんが、そもそも、エニックス編集部には週刊誌ノウハウがありません。
(というか、雑誌ノウハウそのものも手探り状態でしょう)
それはマラソン選手に「あ、明日から100m走に転向してね」というようなものです。


しかし、ここで得られたノウハウがその後のガンガンに生かされていくのでしょう。
方向性はこの時期に徐々に決まっていきます。

98年には再月刊化し、
スターオーシャンセカンドストーリー』『魔探偵ロキ』『新撰組異聞PEACEMAKER』『スパイラル〜推理の絆〜
といった「中性的なマンガ」が増殖していきます。つまり、女性にも男性にも好まれる作品です。
同時に、この時期はアニメ化が激しい勢いで行われます。


「少年」と名が付いていながら、「少年ジャンプ」「少年マガジン」「少年サンデー」の大手三大誌とは一線を画していきます。
少年向けというより、やや青年向きの作品が増えます。
これは現在のガンガンにもいえることですが、ガンガン(エニックスマンガか?)を最も特色づけているのは「中性」でしょう。マニアックすぎず男女ともに受け入れられる作品が、今日のヒットを生んでいます。
ただ、この時期は男性向け女性向けが明確に分かれ、ややマニアック向けが多かった気もします。


しかし、2000年以降、事態は一変します。
少年マンガ原理主義というべき、少年マンガ回帰が行われます。強引な少年マンガ路線への変更です。
これに反発した編集者が造反し、「マッグガーデン」や「一迅社」を立ち上げます。
その詳細は、先のサイトウィキペディア「エニックスお家騒動」に詳しくあります。


余談ですが、「たかひろ的研究館」では、

エニックスを離脱した編集者たちの多くは、かつての「エニックスマンガ」を育ててきた主要メンバーであり、少年マンガに対するこだわりが薄く、それよりは独創的なマンガを作っていこうという意思が強い人たちでした。


としていますが、現状を見る限りでは、マッグガーデンは男性向けマニアック作品、一迅社は女性向けマニアック作品に傾倒しています。
ひと悶着した後に、結局エニックス側がマニアック要素を排除した、ともいえます。


それが幸か不幸か、その後の低迷と今の復興を示している気がします。
その後、21世紀でまっとうな作品は『SOULEATER』くらいでしょう。
少なくとも、今続いている面白いと思う作品は2008年くらいから出てきた作品か、それとも別雑誌へ移転した作品ばかりです。
つまり、お家騒動から2008年くらいまでは方向性の失敗が見えます。
原理主義的な少年マンガ路線の失敗です。
現在の少年ガンガンのラインナップは割とエニックスらしさが出ている「エニックスコミック」らしい作品といえます。


個人的な感想でいえば、今勢いがあるのは「ガンガンJOKER」と「ガンガンONLINE」ではないでしょうか。
今後、「ガンガンJOKER」がどういう方向性に向かうのか、そして「ガンガンONLINE」が新しい雑誌の地平を開くのか。
そこが見ものです。


さて、総括すると、


マンガ雑誌として売れるためにはコンセプトが明快であるほうがよい。
⇒これは「エニックスコミック」=「中性的マンガ」というコンセプトを確立したので、ガンガンはそこにもどることで勢いを取り戻しています。


ただし、ストイックなまでに路線にこだわると自滅する。
少年マンガ原理主義で自滅した21世紀初頭がいい例です。むしろ、自分の強みを理解していなかった、ともいえます。


マニアック路線はあるパイを持つが、大きなパイにはなりえない。
⇒これは90年代後半の状況を見れば一目瞭然です。ある程度成功したものの、知名度という点では2番手と言わざるをえません。また、その世代である「マッグガーデン」「一迅社」を見ても明らかです。


雑誌は対象を絞るべき、でなければwebのような無料・紙面を気にしない作りにすべき
⇒「ガンガンJOKER」のようにターゲット層とコンセプトが合致している雑誌にならざるを得ないといえます。これはガンガンから見える、というより週刊○○などの趣味マガジンから、といえます。
また、一時期あった分厚い紙面ではなく、多様化・多コンセプトであるならば、webにしない限り、紙の雑誌では成功しないでしょう。
もっとも、これらは今後の展開によるもので、必ずしも、とは言えない。


一つ明確に言えることは、何か一つに拘泥することは自滅を招く、ということです。
少年マンガ原理主義に拘泥したがゆえに、編集部が分裂し、雑誌の低迷を引き起こしたことは自明の理です。
これは誰の発案かは分かりませんが、20世紀末から21世紀初頭の混乱の原因はその人のせいでしょう。


信念を持つことはよいことですが、自分たちに求められたニーズを理解することもまた必要ではないでしょうか。
そのニーズが合致しているから、今のガンガン(ひいてはスクウェア・エニックス)が発展しているのではないでしょうか。