- 作者: 保坂和志
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/11
- メディア: 文庫
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保坂先生の言いたいことは分かります。
しかし、創作を美化しすぎている感があります。この本で彼が言いたいことは「本当の小説とは」です。では、その「本当の小説」とはどういうものなのでしょう。その点が語られているようで何一つ語られていません。
私自身、創作の仕方を書いたことがあるので言及しますが、この本の要点は「名作」を書くためにはこうしろ、という観念論です。
ですが、「名作」とは大衆が何十年かけて決めることで作家が決めることではありません。
この本の中で、氏はベストセラーを批判しています。私自身、ベストセラーは名作ではないと思っています。けれど、ベストセラーには見るべき点も多くあります。にもかかわらず、ベストセラーを毛嫌いするかのような発言。
また、いわゆるハウツー本に書かれているテクニックも否定しています。確かに、技巧にこだわりすぎ、装飾が華美になるのはいかがなものかと思いますが、むしろ初心者にはテクニックから指導した方が分かりがよいはずです。
正直、この本を読んで「小説とはかくあるべき」「下世話な小説は小説にあらず」のような印象を受けます。
はっきり言って、そんな人からは教わりたくありません。
もちろん、この本で見るべき点はあります。
それはレトリックなどのテクニックに走らないこと、風景をどう描くか、という2点です。この点については賛同できます。
作家ではない私が批判するのは筋違いだと認識しています。
それでもあえて言うならば、テクニックの何がいけないのでしょうか、ベストセラーの何がいけないのでしょうか。
本職の小説家になるためには、「売れ」なければなりません。
小説が売れて、初めて作家は作家として認知されます。
つまり、売れない小説は存在しないと同義です。
そのために、ベストセラーは重要な教本になります。
どういう点が読者を惹きつけるのか。そのエッセンスが詰まっています。それを抽出し、自分の小説に組み替えられれば、「売れる」本になります。
また、剣道や柔道といった武道や野球・サッカーといったスポーツは、まず型から入ります。基本動作があって、そのバリエーションがイチローであったり、ガンバ大阪の遠藤であったりします。
同様に歌舞伎や能もまた、型があって、それを何千回何万回と繰り返すこと、初めて新しい動きを会得できます。
言い方を変えれば、基本が完成されて初めて自由な動きができるのです。
しかし、この本では最初から自由に動け、と教えています。
それはまるで、「さあ、みなさん。作文の時間です。みんな自由に書いて下さい」という教師のごとく。
それって無理ですよね。
だからこそ、テクニックは必要です。
ただ、テクニックはあくまで基礎・基本です。その先を見据えなければ小説にはならないと思います。
とかく芸術論は既存のものから自由になれ、と言いがちですが、実はその既存のものが重要です。
基本があってこその応用・発展です。
だからこそ、作文の基本を知るべきだし、創作の基本を作り出すべきです。
大作家先生は格好いいことを言いますが、汗まみれの努力こそが重要なのではないでしょうか。