活字中毒の溺れる様の記

これは、よくいる活字中毒者が溺れ死ぬまでの記録である……なわけない(笑)

手垢にまみれない物語

アルキメデスは手を汚さない (講談社文庫)

アルキメデスは手を汚さない (講談社文庫)


アルキメデスは手を汚さない』
久しぶりに来ました。良作です。
けっして、名作でも大作でもありません。ですが、教科書的な良作であることは間違いありません。


まず、文章が非常に丁寧です。
ストーリー自体も推理小説のお手本となるほど丁寧に作り込まれていますが、それにもまして文章が丁寧に書き込まれています。
作者自身も発言していますが、悪漢小説として少年少女の機微を巧く表現しています。それが奇抜な手法ではなく、王道のような作り込みを重ねることによって生み出されています。


そして、何を作りたいのかが非常に明瞭です。
著者自身、悪漢小説を書きたい、と述べていたそうですが、それが前面に押し出されています。
1972年という時代背景のもと、戦後の急成長と矛盾が表出し、青年たちは学生運動へと傾倒していく、それを土台とした青春小説といっても問題はないでしょう。
その当時の進学校の生徒たちが大人も舌を巻くような悪漢ぶりを披露しています。


本作は第19回江戸川乱歩賞を受賞した作品です。
時代性もそうですが、作品の筋立て・文章は、本当に手本とできる作品です。そういう意味で、名作ではなく良作と表現させていただきました。
この作品を読んで東野圭吾は作家になろうとしたのも頷けます。


多少、時代性によって今読むと幾分古くさく感じる部分もありますが、ストーリーそのものは現代でも充分に通じる作品です。
時代を超えた作品、と表現してもいいでしょう。