活字中毒の溺れる様の記

これは、よくいる活字中毒者が溺れ死ぬまでの記録である……なわけない(笑)

濁流に立つ一本の木のように

魔王 (講談社文庫)

魔王 (講談社文庫)

伊坂幸太郎『魔王』
やはり、伊坂幸太郎は面白い。
この物語は安藤兄弟を機軸とした群衆対個人の物語です。
世間は犬養首相が変革を迫っているが、それはどこかファシズムに似ている。それに危惧を感じる安藤兄。やがて自分にある能力があることに気が付き、それを使って犬養を止めようとする。
その五年後、安藤弟はニュースやネットとは距離を置いた生活をしている。彼もまた、ある能力に目覚め、兄とは違う方法で世の中を変えようとする。


この物語の肝心なところは、けっして政治問題に言及しているわけではないと言うことです。
むしろ、世間という集団の中の個人を扱っています。
近年、個人を扱おうとすると、どうしても世間から隔絶した状態で語ろうとします。それは文学でも他の媒体でも同様です。
しかし、伊坂はそれをあえて、一つの流れを持った群衆に対峙する個人という形で描こうとしています。


その挑戦的なところが好きですね。
人間はどうしても流れの中で生きています。その流れは集団が作り出すものです。
しかし、それにあえて立ち向かうことで個人そのものを描くことに挑戦しています。


いやぁ、伊坂はいいですね。