活字中毒の溺れる様の記

これは、よくいる活字中毒者が溺れ死ぬまでの記録である……なわけない(笑)

宝石箱あるいは時限爆弾


やはり恩田陸はすごい。
作品に潜ませた仕掛けに脱帽です。


蒲公英草紙―常野物語 (集英社文庫)

蒲公英草紙―常野物語 (集英社文庫)


恩田陸『蒲公英草紙』は常野物語の一部です。
時代は「にゅう・せんちゅりぃ」を迎えたばかりの日本の片田舎。
正確には20世紀を迎えたばかりの東北の一農村を舞台にしています。その農村が非常に遠野をイメージさせるのどかさで、なおかつノスタルジーを呼び起こします。
そこに住む槙村家。村の有力者で村のために尽力する人物であります。その隣に住む医者の娘「峰子」が主人公で、彼女から見た槙村家やその客人、そしてやってくる「常野」の春日家を描いています。


登場人物の豊かさが恩田作品の特徴の一つでしょう。
奇妙な発明を繰り返す「池端」、日本画を否定する洋画家「椎名」、彫れなくなった仏師「永慶」、不思議な力を持つ槙村家の娘「聡子」など、特徴的な人物を巧く配置しています。


これから日本が見舞われる戦争の時代を予感させながらも、のどかな田園風景が描かれ続けます。
確かに不思議な能力が現れるものの、それを許容する世界観がそこに広がっています。
槙村家と常野の関係や聡子の行動など、予想された範疇でしたが、しかし、ラストシーン。なぜ「にゅう・せんちゅりぃ」を舞台にし、その時代の農村を舞台とし、「常野」春日家の能力を「しまう」能力にしたのか。すべてがラストシーンにつながっていきます。
あのラストだとは予想だにしていませんでした。


まるで宝石箱だと思っていたものが、実は時限爆弾だったような、そんな驚きです。
恩田陸、恐るべし。