活字中毒の溺れる様の記

これは、よくいる活字中毒者が溺れ死ぬまでの記録である……なわけない(笑)

ライトノベルに向かない小説

桜庭一樹少女には向かない職業』を読みました。


昨今では、ライトノベル作家が席巻していますが、彼女もまたライトノベル出身作家です。
以前から桜庭一樹は読みたいと思っていたのですが、なかなかハードカバー本には手が出ませんでした。しかし、同作品が文庫化されたのを気に読んでみました。


この作品について言えば、緻密なミスリードがあるわけでも、驚くようなトリックも、手に汗握るサスペンスもあるわけではありません。その点で、他のジャンル小説に抜きん出ているわけではありません。しかし、この作品の素晴らしいところは展開力です。13歳の少女二人がそれ以外に進むべき道を持たないと思わせる展開でしょう。13歳だからあり得る、閉じられた地方都市だから起こりえる現実感こそが、『少女には向かない職業』の面白味です。
確かに、ライトノベル的ではありますが、それを補う展開や心理描写が巧妙です。


さて、話は少し外れて。「ライトノベル」とは何なのでしょうか。
そもそもは、ジュブナイルと呼ばれ、いわゆる少年少女が読む小説とされてきました。80年代にジュブナイル小説にはまっていた方々が世代でしょう。しかし、90年代にいたり、様相は変化します。よりアニメ的、ゲーム的になったのです。その際たるが電撃ゲーム小説大賞でしょう。同賞はアニメ化・ゲーム化といったメディアミックスを目的としたものです。さらに00年代になり、美少女ブームに乗って「萌え」化が激しくなります。
ここに来て、同時にライトノベルが従来のジュブナイル小説と同義ではなく、ジャンルの枠を超えた定義になり始めます。そして、今やライトノベル作家直木賞候補にまでなる時代になりました。
現状の「ライトノベル」は10代の読者をターゲットにしながら、ジャンル小説に広がる一つの要素と捉えるべきでしょう。言い方を変えれば、広義のファンタジーと同じです。広義のファンタジーもまたジャンルではなく要素です。


さて、話を戻して、桜庭一樹ライトノベル作家ですが、サスペンスやミステリのジャンルに充分耐えうる作家です。
この感覚は乙一米澤穂信を読んだ時と同じです。
ライトノベル」的ではない。
ここでいうライトノベルは、ジャンルとしてのライトノベルです。ライトノベルだな、と思わせる小説は少年少女向けで大人が読んで耐えうるものではありません。それはむしろライトノベルが悪いのではなく作家が悪いのですが。
ジャンルとしてのライトノベルを超える作家が今後増えていくでしょう。彼らがライトノベルをジャンルではなく要素をしていくのでしょう。