活字中毒の溺れる様の記

これは、よくいる活字中毒者が溺れ死ぬまでの記録である……なわけない(笑)

結局、何なのさ

別役実『壊れた風景』の台本を見ました。
確かに不条理ですね。何も起こらない劇ですね。


ピクニックのセットだけが置かれた山の中で、六人の男女が出会うのですが、よく分からない。何か話がかみ合っているような、かみ合っていないような。はっきりしているような、しないような。
曖昧さとずれた感覚が、不条理と物語の停滞を表しています。
しかも、男女六人の素性がよく分からない。一人は薬売りで駅へ向かっている。二人は母娘でハイキングをしている。一人はマラソン途中、二人は駅へ向かう途中の夫婦。それ以外の情報はない。


最初はこの道が合っているのかという話から始まり、マラソンしていた男のメガネが壊れ、時計がなくなってしまったことを言い争い、そして夫婦が置かれていたランチを食べて。
どれも話が始まるけれど、どこにも行き着かない。解決もしないし、何の発展もしない。かといって、何も起こらないと言うかと言えば、それでも話は変わっていく。


そして、みんながランチを食べ始めて団欒というところで、第4の男が登場。彼がランチの主かと思えば、「そこで一家心中がありました。この辺に彼らのピクニックセットがあると思うのですが」と見事に外す。
そして、「あなた方は誰なんですか」と、まさに観客が不思議に思っていることを口にして舞台は終幕。


まさに彼の言葉通り、「あなた方は誰」なのか。それこそが重要なのに、結局語られない。
その不条理さ、話の構築は別役実の凄さだな、と感心しました。