活字中毒の溺れる様の記

これは、よくいる活字中毒者が溺れ死ぬまでの記録である……なわけない(笑)

理由になっていない

桜さん、素敵です。
伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』は面白いですね。確かに新潮ミステリー倶楽部賞を受賞するに値する作品です。


純文学的な哲学を持ちながら、ミステリの王道とも言える伏線の張り方が素晴らしいです。一見何も関係ないものが絡み合って、実は一つの方向へ向かっていく。
それがまた、喋る案山子が仕掛けたことだから面白い。
ネタバレをすると、喋る案山子『優午』がすでに絶滅したはずのリョコウバトを救うためにみんなにそれぞれ役割を与え、さらに自分を殺させ、そのことでこれから起こる殺人の犯人を分からなくさせる。
案山子が天敵の鳥を救う。しかも、人間を使って。
そのシュールとも言える状況が決しておかしくなく、むしろ一抹の悲しさを漂わせている。


物語のエピソードは寓話的だけれど、観念的ではない。むしろ明確な現実感を伴っている。
少なくとも、今までの小説になかった表現を見事に創りあげている。
もう、小説の表現は使い古されて、組み合わせしかないと思っていましたが、これにはやられました。


こんな御託を並べていますが、結局のところ「理由になっていない」んですけど。