活字中毒の溺れる様の記

これは、よくいる活字中毒者が溺れ死ぬまでの記録である……なわけない(笑)

Trick or Treat

若桜木さんが『プロ作家になるための四十カ条』で「時間列を乱すな」という発言をしていました。要約すると、必要に迫られない限りストーリーは時間順に書きなさい、ということです。
まあ、世の中、冒頭から回想シーンとか過去へストーリーが飛ぶ作品は数多くあります。安易な感動を与えるための手法であったり、登場人物の背景の肉付けのためであることがままあります。


では、若桜木さんはどのような場合なら時間列を変えて言いといっているのでしょうか。それは上記の新書の中に書かれているわけですが。
その好例を加納朋子コッペリア』に見ることができました。この作品は人形に魅入られた青年と人形に瓜二つの女性を機軸に展開していきます。ネタバレを敢えて恐れず書くと、一年前と一年後の話が入り組んで話が展開していきます。それがほぼ同じ道筋をたどっているために、読者はミスリードされるわけです。叙述トリックの手法といえます。
昔、富士見ファンタジア大賞の作品にも似たようなものがありました。題名は忘れましたが、その世界は巫女がいて、その巫女は強制的な眠りに就くことで世界の均衡が保たれている、というものです。それも先代の事件と今の事件がオーバーラップしながら読者を惑わす叙述トリックもどき(ミステリではないので、もどきとしました)でした。


つまり、若桜木さんの例外の一つが叙述トリックに関わる場合、ということになります。
確かに、『コッペリア』を読むと、時間列の乱れは必然性がありますし、よそで見かける冗漫な回想シーンは意味がないことは明らかです。
でも、どうしてか、作家の卵達は時間列を崩したがるんですよね。まあ、話を作るのに楽と言えば楽ですが。
それこそ、一種のTrick or Treatといったところでしょうか。