活字中毒の溺れる様の記

これは、よくいる活字中毒者が溺れ死ぬまでの記録である……なわけない(笑)

演劇バカたちの日


別役実「虫たちの日」(『バカボンのパパなのだ』収録)は求めていた作品に最も近い形です。


今までの戯曲は何かが起こる、つまりストーリーが存在するものか、それに対するアンチテーゼとして何も起こらない物語でした。
確かに、ストーリーのあるものは分かりやすく面白いと思います。それ自身を否定する気はありません。
同様に、何も起こらない物語は、その実「非日常」の空間に過ぎません。


しかし、「虫たちの日」は本当に何も起こらない、現実の物語なんです。
物語の舞台設定は老年期の夫婦の食事風景です。そこにあるのは、本当にあり得る日常の会話です。ちょっとかみ合わないけれど、かみ合わないことを織り込み済みで話が進む長年連れ添った夫婦。
どこかユーモラスでありながらシリアスでもある。


ラストシーンは何かを起きたような、そう思わせるシーンになっていますが、それは不要な気がします。
これは本当に何も起こらない物語です。


もう一つ求めているものに、祭りのあとのような物語があります。
ストーリーが起こる、というのは言い換えれば、非日常的であり、お祭り的です。しかし、それが終わったあとの物語はどうでしょう。何も起こらない物語でもなく、起こってしまったあとの物語です。
ストーリー自体を具体的に喚起できないのが悔しいのですが、そういう作品もあってよいと思うわけです。


既存の戯曲を否定するつもりは毛頭ありません。
しかし、そういう意欲的な作品がないものかとも思うわけです。