活字中毒の溺れる様の記

これは、よくいる活字中毒者が溺れ死ぬまでの記録である……なわけない(笑)

ストレンジ・ピープル

明転。


男2が室内を物色している。やがて、大量の現金を見つける。
だが、喜ぶどころか、困った様子をみせる。


そこに、男1帰ってくる。
男2、気まずそうな、ホッとしたような顔。


男1「あ」


男1、男2と現金を見る。
しばらくの間。

男1「……見なかったことにするので。それ、持っていって下さい」
男2「は?」
男1「ですから、持っていって下さい。お願いです」
男2「でも、これ……あれですよね」
男1「いいんです。お願いですから、持っていって下さい」
男2「と言われましても、こんなには……」
男1「いえ、本当に。困るんです」
男2「困るって、こっちも困るんですけど」
男1「だって、あなた。あれ(ドロボウ)、ですよね」
男2「まあ、あれ(ドロボウ)、ですが」
男1「だったら問題ないじゃないですか。どうぞ、受け取って下さい」
男2「いや普通、私のような人間に遭って『受け取って下さい』はないんじゃないですかね」
男1「本当にかまいませんから。貰っていただいた方がありがたいんですよ」
男2「私も、この商売は長いですけど、『貰って下さい』といわれたのは初めてです」
男1「いえ、貰っていただいた方がすっきりします」
男2「いや、むしろ私が困るんです」
男1「どうしてですか。それが目的なんですよね」
男2「目的というか手段というか。ともかく、こんなにはいただけませんよ」
男1「いいんです。どうぞ人助けだと思って貰ってやって下さい」
男2「(困ったように)なんか調子狂うな」
男1「本人がいいっていうんですから問題ありません」
男2「普通、こういうときって警察に通報しませんか?」


男1、「警察」という単語に異常に反応する。


男1「とんでもない! 警察なんてやめて下さい」
男2「それ、普通、私の台詞ですよ」
男1「ああ、すみません。では、どうぞ(何かを勧める仕草)」
男2「どうぞ、とは?」
男1「いえ、台詞をとってしまったので、どうぞあなたが言い直して下さい」
男2「(困ったように)なんか調子狂うな」
男1「(笑顔で)どうぞ」
男2「じゃあ……警察を呼んで下さい」
男1「は?」
男2「いえ。ですから、警察を呼んで下さい」
男1「ちょっと待って下さい。なんてあなたが警察を呼ぶんですか」
男2「こうして現行犯なわけですから、観念してお縄を頂戴する、というのが美学というものです」
男1「美学とかはどうでもいいんですよ」
男2「いや、私も警察を呼んでいただかないと困るんですよ」
男1「どうしてですか」
男2「それは……その、まあ、いわゆる一つの……ですね」
男1「警察を呼ぶドロボウなんて聞いたことがありませんよ」
男2「こっちにも事情があるんですよ」
男1「事情?」
男2「第一、あなただって警察に来てもらいたくないみたいじゃないですか」
男1「それは……その、まあ、いわゆる一つの……ですね」
男2「お互い様じゃないですか。ここは大人しく捕まりますので、警察を呼んで穏便に済ませましょうよ」
男1「それじゃ困るんです」
男2「私も困ります」
男1「参ったなぁ」
男2「そういわれても……もしかして、人に言えないお金ですか、これ」


男1、表情が変わる。


男2「ああ、そうですか。確かに警察はまずいですよね」
男1「ほんの出来心だったんです」
男2「みんな、最初はそうですよ」
男1「なんとなく経理書類をごまかしてみたらうまくいって。それから少しずつ……」
男2「止められなくなったんですね」
男1「はい。会社の経理って意外にずさんなんですよ」
男2「それでやってしまったと」
男1「お金には手をつけていませんよ。ただ、お金をごまかすという行為が面白くなってしまって」
男2「罪悪感はあるんですか」
男1「もちろんです。ただ、誰にも言えなくて。銀行に多額のお金があっても変ですし、それで、そこに隠したんです」
男2「それがこれ、ですか」
男1「はい……」
男2「悪いことは言いません。自首したほうがいいですよ」
男1「それは分かっているんですが……って、なぜあなたに説得されているんですか」
男2「ああ、確かに」
男1「あなただって、なぜそんなに警察を呼びたがるんですか」
男2「いやぁ、お恥ずかしいお話ですが。私、パトカーが好きなんですね」
男1「はあ」
男2「それで、一度パトカーに乗った快感が忘れられず、逮捕されればパトカーに乗れるかな、と。それで、こんなことをしているわけです」
男1「それは傍迷惑ですね」
男2「いえ、こう見えても、人様のモノを盗んだことはありません。盗んだフリをして捕まるんです」
男1「変わった趣味ですね」
男2「ですので、警察を呼んでいただけると助かるんですが」
男1「警察を呼ぶと私が困るんです」
男2「警察を呼ばないと、私は本当の窃盗になります」


……と、以下続く。


こんな感じの台本はどうかななんて。
その後、男1の奥さんが出てきて、横領の事実を知らない奥さんは最近の夫の不審な行動を愛人がいるのだと信じ込み、しかも、その愛人が男2だと思い込みます。
そんなどたばたコメディをやってみたいな、なんて。