活字中毒の溺れる様の記

これは、よくいる活字中毒者が溺れ死ぬまでの記録である……なわけない(笑)

書評だったり、なかったり

山口芳宏『雲上都市の大冒険』を読みました。
この作品は、第17回鮎川哲也賞を受賞した作品です。
(*ネタバレあり)

感想を。
冒険探偵小説としてみれば、良くできた作品です。しかし、鮎川哲也賞本格ミステリを基準としているので、そう考えると、本格とすべきではないでしょう。
その上で。
ストーリーは良くできています。流れにまったく違和感がなく、最後まで読むことができました。しかし、ちょっと長すぎかな、とも思います。それは、最後の謎解きの部分が非常に説明臭いんですよね。犯行の理由を述べていくわけですが、それが単なる説明に過ぎない。もっと短くてもいいですね。そして、ラストの現代シーンもなんか逃げ的なんですよね。「随分と筆が滑ってしまった」と書いていますが、冒険探偵小説なら荒唐無稽でいいんです。それは本格に対する逃げですよね。


キャラは非常に好きですね。特に探偵の二人。荒城と真野原のキャラ設定は非常に面白いですし、対照的です。行動的探偵と頭脳的探偵というコントラストはうまく描かれています。
この作者のもっとも腕のあるところです。


トリックですが、途中までは良かったのですが、座吾郎が牢獄を抜け出すトリックはいかがなものかと。トリックそのものはいいんですが、生きながら塩酸と苛性ソーダに溶かされるくだりは、無用だったと思います。あの書き方では、まだ真相が二転三転しそうな書き方です。なのに、あのまま終わってしまうのは、拍子抜けします。


考えるべきところは多いですが、次回作は見てみたいと思います。選考で笠井氏が述べている通り、本格は現代を舞台にすべきと思います。だからこそ、現代でのストーリーをどう描くのか、彼の力量が試されるところです。