この作品には、すべてのエンターテインメントが共存している。
打海文三『裸者と裸者』に圧倒されました。はっきり言います。こんな書評を読んでいる暇があったら、書店に買いに行って下さい。そこにすべてがあります。
- 作者: 打海文三
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/12
- メディア: 文庫
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- 作者: 打海文三
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2007/12
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この物語はある成長物語です。
誰の、と問われれば、主人公の「佐々木海人」と答えるしかないのですが、むしろ物語に登場する孤児達の成長物語です。
舞台は経済破綻を起こした内乱状態の日本。一種の近未来SFと考えて下さい。その世界で孤児となった海人は弟妹を養うため、紆余曲折あって軍隊に入ります。その中で、自分の足場を築き、戦争をなくすという目標に向かっていきます。
この作品のもっとも魅力的な部分は、海人の成長よりも周辺人物です。幼い頃の海人をたびたび救うロシアマフィア幹部のファン、外人部隊中隊長のイヴァン、常磐軍の白井少佐、孤児の月田姉妹など魅力的な登場人物こそが、この作品の一番の面白味です。
彼らの魅力は、現実の常識から見れば非常識ですが、それでもそこに確固たる信念があるところです。その信念から吐き出される言葉が私達に突き刺さります。特に、月田姉妹は『裸者と裸者』下巻の中心人物で、〈シティ〉でマフィアを立ち上げる経緯は圧巻です。
「おまえが罪を犯すならわたしも罪を犯そう」
月田姉妹が立ち上げたマフィア、パンプキン・ガールズのテーゼです。この一言だけで、体中の産毛が逆立つ感覚を味わいました。
〈シティ〉、現在の多摩市・稲城市周辺のスラム街で、不良少女だけの部隊をつくりあげます。しかし、その理由が自分の欲望「不良少女達を武装させて秩序を破壊すること」だけだというところがまた魅力的です。
しかも、立ち上げた当初は4人の少女と4丁のAKのみ!
それだけで〈シティ〉のマフィアや常磐軍と渡り合おうとするのだから、豪気という以外ありません。しかも、最終的には1500人を要する一大勢力になったのだから言葉もありません。
全体を流れる頽廃感、それに抗おうとする人々、すべてが交錯しながら内乱の日本が徐々に変わっていく。
打海氏の素晴らしい構想に完敗です。
ただ、惜しむらくは氏が2007年10月に逝去されてしまったことです。そのため、この一連のシリーズが未完になってしまいました。続編の『愚者と愚者』が出版されているものの、どのように展開しようとしたのか、その先を見たかったです。