活字中毒の溺れる様の記

これは、よくいる活字中毒者が溺れ死ぬまでの記録である……なわけない(笑)

記憶と日本ファンタジーノベル大賞

『忘れないと誓ったぼくがいた』を読んで、その感想を少し。
著者は平山瑞穂で、『ラス・マンチャス通信』で第16回日本ファンタジーノベル大賞大賞を受賞しています。という、前提条件を踏まえて。
確かに、文章は読ませる力を持っています。決して悪くないし、内容もそこまで酷いものではない。ただ、白倉由美『きみを守るためにぼくは夢をみる』、新城カズマサマー/タイム/トラベラー』を思い出してしまうんです。
それらの作品に共通するのは「記憶」と「世界との断絶」です。どれも主人公が何らかの原因で世界と断絶してしまう(『忘れない〜』は存在そのものの消失、『きみを守るため〜』は7年の空白期間、『サマー〜』は未来への跳躍)。それに伴う主人公と周辺の人間との記憶の落差(あるいは欠落)。そのことによって登場人物達が苦しみながら、それでも乗り越えていく。というのが主軸です。
すべてに共通する主張は「世界における『自分』の存在意義」ではないでしょうか。世界と一度断絶されることによって、主人公が自分の存在意義を見つける筋書きが見えます。特に『忘れない〜』と『サマー〜』は好きな女の子が自分の手の届かない場所に行ってしまう、しかも、それが自分の力ではどうしようもないことに打ちひしがれる。その挫折が自分の目的を見つける結果にもなる。
分かりやすい恋愛小説であり、青春小説でもある。よく言えば現代の成長物語だけれど、悪く言うとお涙頂戴を狙った作品ともいえます。
悪くはないんですけどね。ただ、ひねりも意外性もなかったのが残念。展開が読めただけに、それ以外のところで意外性が欲しかったですね。特に印象と展開が『サマー/タイム/トラベラー』に類似していたので、ムムムと。
『しゃばげ』といい、最近の日本ファンタジーノベル大賞は意外性のある作家ではなくなって気がします。